「透璃!付け毛はもういいの?」
「うるせえ、思い出させんな!」

透璃も祭典の都合上女装させられていたのだが、身分を隠して祭に参加しているので、今は紺の着物を着ている。雪佳はたまご色の着物を着ていて目立たない格好をしている。
もちろん、帰ってきたらまた女装だが、気にしない事にしている。

「雪佳はもっと遠くにいってみてえ、とか思ったことはないの?」
「とおく?」
「そ、いろんなとこを見に行ってー」

雪佳は考え込むしぐさをした後、また笑う。透璃は何がおかしいのかわからずに、雪佳をみた。

「ないなあ、だって、わたし、今、大好きな人がいっぱいいる場所にいるんだもん」

雪佳は透璃の手を握った。ね、と透璃はこちらを窺う。

「自由にいろんな所にいきたいとか…」
「じゃあ、」

雪佳は大きく手を叩いた。黒い髪がふわり、と揺れる。

「透璃がつれてってよ!それで、いつまでも、ずーっと暮らすの!」

雪佳の言葉に透璃はああ、と頷いた。