「いえ、全くそんなことないですけど…」

雛生はまじまじと透茉を見つめた。銀の髪はさらさらと揺れている。長い睫毛に縁取られた涼やかな瞳は以前見た透茉と寸分違わないように見えるが、どこか女性らしく見える。それはうっすらと化粧をしているせいだけではないように思えた。

「本日の舞台、銀様も大層楽しみにしております。…それと、雛生様に新たな扉が開く日となりましょう、そう仰っておりました。」
「…それは…吉報かしら?」
「私にはわかりかねません。過去の呪縛であり、未来の欠片だとか…。」
「銀様は元気ですか?」

聞くと、切なそうな微苦笑を透茉がした。雛生は、あまり体調が優れない事を察した。

「私たちは、新しい時代をいつだって案じております。この哀しみはいつまでも連鎖していてはいけないのですから」

礼をして去ろうとする透茉を慌てて雛生は引き留めた。温度が低い、というのは間違っていたらしい、引き留めた腕は男性としては細いものの、人の、血の通った温かさのある腕だった。

「頑張りますから…どうか、お二人も、頑張ってください…」

その言葉の真意を汲み取ったかはわからないが小さく微笑んで、部屋をでていった。

ー…