目が覚めて、辺りを見回すと、もう外がくらい、月明かりも今夜は雲がかかって雛生の部屋には射し込まない。舜秋祭のための連日のお稽古はきつい。そのため、寝台に倒れこんで、そのまま寝ていたらしい。雛生は大きく伸びをした。懐かしい夢を見ていた気がする。あの夢に出ていた人は母さんだろうか?ぼんやりと考えていると、莉津が扉を叩いて入ってくる。
呆れながらも、莉津は雛生の御茶を用意する。

「ねえ、莉津。」
「はい?」
「私は志臣が好きなのかな?」

莉津は動かしていた手を止め、目を見開いた。

「それは、急な話題転換ですねえ…。どうかされました?」
「…志臣があんなに真っ直ぐ好意をぶつけてくるから、どうなんだろう、って思って。」
「雛生さまのお気持ちですから、わたしが判断というわけには参りませんけど、そうですねぇ…、よく知っていただければ、主上をお嫌いになる方はいません。それほど、愛されるお方です。恋愛感情に成りうるか?とのことでしたら、」
「でしたら?」

莉津は、一呼吸置いて、百戦錬磨の娼婦のように艶やかに笑った。

「人はどこで切り替わるかはわかりません、誰しもにその可能性はあるものなんですよ。かくいうわたしも挑み続ける所存の殿方がいますし、勿論、明乎にも。」