「ねえ、游、あなたはあの宮で変わらぬ歳を重ねたでしょうけれど…幸せかしら?」
「不幸せではなかったわ」
「そう、私も、日生も、外を出て、初めて幸せを感じたの、自分で抱き締める幸せを…。あなたは、あの時、みんなで、私たちで外で暮らすんだと思ってた。游は、…あの時のこと、後悔してない?」

あの時と同じ沚依の目は、まるで私の心を透かし見ようとしているみたいだった。
心の奥で、何かが揺らぐのを感じた。

昔、游、沚依、日生の三人で、いろんな話をした。
沚依と日生は外で暮らすことを、愛した男と共にあることを当たり前のように望んだ。

私はー…

食われるよりも、束縛された幸福よりも、外の自由が怖かった。自分の意思が怖かった。
考え、選びとる恐怖、酷く怖がりな自分が、露呈する、なんて恐ろしいことだろう。

なにより、私は自分が化け物のように汚れ、ひねくれた性分だと知ることが怖かった。

だから、自分の意思が怖いのだ。

「私はもうすぐ、尽きるわ。それは、自然の事象よ。多分、雛生さんを保護することが私の最期の仕事だったみたい」

ふわりと気を抜いたように笑った。手元を見ていた游は視線をあげ、沚依を見つめ直した。