「舜秋祭が近づいて参りましたけど、雛生さまはご存知ですか?」

舞とうたの稽古のため游先生の待つ部屋に行くための長い回廊で莉津は雛生に話しかける。

「豊作を祝う祭りだっけ?」

雛生がそう聞くと、莉津は少し呆れたように笑った。実のところよく知らないのが本音だ。舜秋祭というのは五年に一度開かれるもので、朱巫女になる前にも確かにあったが、色無しだった時は余裕がなさすぎて、どんなものだったかさえ覚えていない。

莉津は、まあ、その意味もありますけど、といって舜秋祭の説明をしてくれる。

「五年間、この国に変事起こらず過ごせた事を感謝するものです。雛生様はその代表として、踊りとうたを天神楽に奉納するんです」
「ああ、先代の巫女さまが踊ってるのみたことあるかも、…紅官も踊るよね?ってことは、莉津も?」
「私は残念ながら、前(さき)の舜秋祭で舞わせていただきましたし、今は雛生様のお世話という大役を仰せつかってますので」

莉津はそう言って微笑んだ。歳はそう変わらないはずだが、莉津も、もちろん明乎も大人っぽい。人生経験の差だろうか。恋愛もわからないひよっ子の雛生が到底越えれるわけもなかった。志臣に対する想いは、恋愛なのだろうか。

わからないな。好きだと思う。だから夜を共にした。もっと解りやすく、恋愛の指標があればいいのに。