「…あなたは、禁術にばかり手を出したがる…」
「人はね、手に届かないものほど素晴らしく見えるものでね。私はきっと一番上に立たなければ、満足できないのだろうよ、それは喉の渇きに似ている」

遠くを見渡す、光璃の目が細くなる。濃い瑠璃色の着流しの襟の白い肌に刻まれた黒い刺青のようなものが、ちらりとのぞいた。それは、禁術を使うと体に刻まれるもので、心と体両方を蝕んでいくものだ。

「俺みたいな庶民からみたら、何が駄目なのかわかりませんけど」
「王族とは、本来強欲で身勝手な生き物なんだよ、だから、"紫族の業"を受け継いでいる。血族を重んじているようで、その関係は本当に薄い。幻のようだ」
「…しぞく、のごう…?」
「この国の歴史の暗部に関わることだから、私はなにも言えないがね、…まあ、お前はなにも考えず、私の傀儡であればいい。そうすれば芙蓉の安全は確保されているのだから」


光璃はほのかに笑い、下がれ、と言うように奈霧に手を振った。奈霧は静かに礼をしてその場を後にする。傀儡か、と奈霧は小さく呟いた。

ー俺はきっと、空平に殺されるんだろうなあ…

まあ、空平なら本望か、と奈霧は思い直す。自分が裏切りを行っていることは当の昔に気づいていた。光璃がどれ程罪深い人間かということも、知っていた。それに加担している自分も。けれど、拒否することはできない。

ふと疑問を持つ。
紫族の業とはなんなのか。紫というのは、今の王族の姓だった筈だ。色官を改めてからは王族が姓を捨て、平民にも姓自体を持たない風習が広まったらしい。

光璃の言葉がひっかかる、しかしこの国の、ましてや暗部に関わる歴史が公開されているかもわからない。