「待てよ。」




帰ろうとするあたしを再度、誰かが止める。




「榊原、滝澤さんは俺が貰うぞ。」




紘紀くんがあの人に向かって言う。




「っんだと…………。」




低い声が響いて行く。




「行こう、滝澤さん。」




紘紀くんはあたしの手を引っ張ると、あの重苦しかった教室から静かな廊下へと連れて行ってくれた。





「滝澤さん、大丈夫??」




廊下に出てすぐに紘紀くんがあたしに話しかけてきた。




「大丈夫って何が??」




「……………榊原と何かあったんだろ??」




紘紀くんは気まずそうに振り返って聞いてきた。




「何もないよ??あると言えば…………。」




「あると言えば??」




「別れたことかな??」



そう聞くと、紘紀くんは目を見開いている。




「別れたって……………。」




「本当だよ??こんなことに嘘吐いても意味ないからね。」




「……………もう好きじゃないの??」




「好きじゃないよ。」




キッパリとあたしは言った。




「そっか!!!!」




紘紀くんは嬉しそうに笑った。




「ねぇ、紘紀くん??」




「紘紀で良いよ。」




「じゃあ、あたしも夕希って呼んでいいよ??」



「マジで!?!?」




「うん、だってあたしが呼び捨てなのに紘紀は『さん』付けって可笑しいでしょ??」




「それもそうだけど…………マジで本当に良いのっ!?」




「もしかして…………彼女とかに怒られるとか??」




「俺に彼女!?!?そんなの有り得ないって。」




紘紀はお腹を抱えて笑い始めた。




「えっ!?紘紀って彼女いないの!?」




「俺には一生、彼女なんて出来ないよ。」




「なんで??」




「一方的な片想いだから。」




そう言って、フッと悲しそうに笑った。