一息つこうよ?


こんな言いかたしてないけど、意図はわかってくれたのかな?
うん。たぶんちゃんとは理解してないと思うけど。


「最初のお仕事おつかれさまってゆうことでとっておきの淹れかたにしたあげるね。」


ふんわり、今のあたしを表現するならそんな感じだろう。自分で言うのもなんだけどお茶を淹れているときが一番至福。
楽しいし、温かい気持ちになるの。


温めた茶器にゆっくりとお湯を注ぐと彩がついて店に香りが広がる。


「お砂糖とかミルクとかはお好みで、」


ことり、と彼の前に温かい湯気を立ち込めたカップをおく。


「オススメのアップルティーだよ、」


優しい味があたしが一番好きな理由。
レモンティーも好きだけどあれは仕事前に飲むのが一番。
爽やかさじゃなくて優しさが欲しいの。
なんて、乙女チックだけど期待を裏切るようで悪いけど味のお話だからね。


「……美味いな」


呟かれるように、言われた言葉にトクンと胸を打たれて。かわすようににこりと笑う。


「……ありがと。君は甘いの平気?」

「別に、そこまで苦手ではないけど……」

「そう、良かった。」


さっき、ケースを覗いてみたらちょうどシフォンケーキが残ってたからふたつに切り分けて持って行こう。さすがに、生クリームは添えることは出来ないけど。


「シフォンケーキ、食べてよ。余っちゃったから。」


切り分けたシフォンケーキをお皿に盛りつけてフォークと一緒にカウンターに座ってる彼の目の前に置く。
ついでに、隣に自分の分のアップルティーとシフォンケーキも持ってきて座る。


「ありがとな、いただきます。」


シフォンケーキが美味しいのは知ってる。
これは事実だもん。美味しくないのはお店には出せないから。だけど、やっぱり間近で食べられるのは緊張してついついジッと見てしまう。


パクリと彼が口に含んで笑った。


「美味いよ、」

「……よ、かった!」


きゅっと胸が縮んで。嬉しいと思ったのは秘密。未練ある恋心がそうなっただけだもん。


安心して、シフォンケーキを口に含む。
あ、リンゴリンゴしてるけどいっか。


温かい林檎味は優しい湯気とホッとしよう。