トホホ、と嘆きたくなった自分に喝をいれて仕込みを再開する。
彼は何やら本格的に気まずいのか、右往左往している。
くそ、邪魔だよっ!仮にも昨日まで恋い焦がれてきた人に対する扱いではないにしろ、あたしはそこらへんにいる可愛い乙女ではないので思考回路が少しいや、OLのベテラン並みなのだ。哀しいことに。
「ねぇ、君。暇なら店長呼んできて。多分、ここから西に歩いて“ゆきんこ”っていう喫茶店で時間つぶしてると思うから。ついでに……」
煮込んでいる鍋から手を離して業務冷蔵庫に貼ってあるメモを彼に渡す。
「それに書いてあるものも買ってきて。スーパーじゃなくて市場のほうね?値切ってよ、ちゃんと。お金は店長が持ってるから。はいっ!よろしくっ!!」
「あ、……独りで大丈夫なのか?」
「……いつものことだもん。ほら、行って!」
エプロンを彼から外させて追い出すように行かせた。
本人も気付いてないような優しさが好きだった、とハタと思いついて首を振る。うん、やめよ。
ちなみに、店長がいるのは歩いて30分かかる結構遠い場所。店長は自転車で行ってるからあれだけど。それにそこのお店にはいると厄介なのだ。ゆきんこはゆきんこらしく、雪の中笑ってればいいものを、
喋る喋る喋る喋る喋る喋る、もう聞いているコッチが辛くなるほど喋るのだ。
いい加減、あの黙ってれば渋くては格好いいマスターに一発くらわせたい。
だから、彼等がお店に帰ってくるのは丁度開店してから30分ほどだと見積もったっ!
ってゆうか、あたしってほんとに恋に生きれない女だと思い知った。
例え、初めての告白でもフラれても普通ではないにしろキョドったりせずにいれる。べつにいいんだけどね。
固くなる彼のことをみると若いねー、と思ってしまうのだ。うん、老けてるよあたし。
となんか考えてる間にポトフは完成、ピラフは後は炒めるだけ。サイドメニューのパンはもうすぐで焼きあがる。
ここはちょっとした人気店なので忙しくなるが大丈夫、独りでも出来る。こんなとこにガラの悪い奴らなんてこない。精々、クリスマス前にデートする若いカップルと常連客の皆様方だ。
料理のほうはだいたい出来たからあとは、看板を書きなおして開店時間に外に出すだけだ。
掃除も結構完璧。あとは各テーブルにちょっとした一工夫を……。
さぁ、幸せはいかが?