「とりあえず、仕事教えるから着替えてきて……」
はい、とこの店の制服であるシャツとエプロンを渡す。更衣室を教えてとりあえず、押し込む。
彼がいなくなったことを確認して……
「店長っ!!知っていたでしょうっ!!」
店長に詰め寄ってみるも、この人は……
「あら、私は別に何もしてないわよ?あの子がここで働きたいって言ったから雇っただけよ?」
何食わぬ顔で返されて自滅するのがオチなんだから。
むむ、と唸って諦める。
いつもこうだ、店長に勝てた試しがない。
「あたし、キッチンいるから彼が用意できたら言って。」
今日の仕込みをしようと昨日、メールで送られてきた材料とメニューを頭の中から引っ張り出そうとしたところに、
「用意できました。」
彼があらわれてしまった。
もー、いや。思わずひきつった顔を根性で戻してくるりと振り返る。
「……っじゃあ、とりあえず掃除してもらうね。掃除用具はスタッフルームの中に入って左の所にあるから見ればわかるよ。」
一応は仕事なのだ。
お金をもらっている以上はつべこべ言っても働かなければならない。
そう、働かざるもの食うべからずなのですよっ!
「わかった。」
固い声、うん。
いかにも融通きかなさそうだもん、彼。
なんて言っちゃうあたしはそこまで彼のことを好きだったの?なんてと疑問に思う。
とはいえ、お昼には開けなければいけないのだ。それまでにランチとケーキの仕込みをしなければならない。
今日は土曜だからメニュー通りに行くとビーフシチューなのだが……業務冷蔵庫の中身を見てみるとおおよそいつものビーフシチューは出来そうにない。
あぁ、リンゴもないじゃない!隠し味には使えない。となると、日替わりメニューを変えないと………
じっくり、と言うべきか独りで考え込んでいると肩を揺さぶられた。
「………っ!?」