「…………」
「どーしたの?麻由」
眉間に皺を寄せていたであろう私につい先日のクリスマスから復帰した丸山さんが私の眉間の皺を親指でつつく。
大学で理系を専攻している丸山さんは研究室に籠もって研究に没頭していたためにバイトは休んでいたのだ。
「最近、視線を感じるんです。」
後ろを振り返ってぶるぶるっと体を震わせる。うん、気持ち悪い。
丸山さんはそんなあたしを見てきょとんとしながらこう言い放った。
「あれ?やっと?」
「へ?」
今のあたしは間抜け面です。
っじゃなくて!
おいっ!犯人はお前かよっ!!
きめーんだよっ!くそうっ!
何これ、何これ、正当防衛とかやっちゃっていいの?
「はーい、心の声ダダ漏れだよー。物騒だからやめてねー。」
やんわりとあたしを遠ざけながら……。
いや、確実に後退りしている丸山さん。
おい。逃げんなよハゲ。
「ごめんなさい。」
「で?犯人はお前か。どうしてくれようこのタマ。」
熱湯をそそいだポットを持ち上げて傾ける、フリをする。
丸山さんは青くなってごめんなさいと叫びながらスタッフルームに消えていった。
「ってか、」
丸山さんは気づいていたのか。
この視線の正体にっ!!
「麻由、五番テーブルの伝票。あとケーキセット一つの珈琲で」
ぶつくさ言ってると彼が注文を持ってきた。
うん何であたしはこいつに名前で呼ばれているのだろうか。
なにこれ、新手のイジメ?何これ、何これ、何これ、
好意は好意で返せ、と思うけれどこればっかりはどうにもならない、出来ない。
それに、イマサラでしょう。
あたしは彼から否定をされたのだ。
それを許して易々と笑えるわけがない。
確かに、今でも好きだと思うしまだ高鳴る気持ちがあるのも否定できない。
けど、それとこれとは違うことだし何より
「脇役はヒロインにはなれないんだ。」
いつだって、光り輝くスポットライトの下で生きているヒロインはいつかは必ず幸せになるの。だけど、脇役は泥水被っても服が破けようとも誰も何も思わないし、“必ず”が約束された幸せはない。
期待なんて、したくない。
裏切りはもう十分だから。