彼が店に来てから3日がたって少しだけ店の空気にも、あたしとのことにも、接客にも慣れだした頃。
ジングルベルが聞こえた。
「もー、クリスマスだな。」
「うん、そーだねー」
2人して閉店後、明日の買い出しに出掛けたら街には暗闇を照らすイルミネーションが輝いていて、ジングルベルの歌がどこからでも聞こえてきている。
「棒読みだな……」
「そー?」
マフラーを首に巻き付けていて防寒対策バッチリのつもりが手袋を忘れたためにカイロが冷たくなる羽目になった。トホホ……
「クリスマスってきいたら、お前ははしゃぎそうなのにな。」
「えー、いくらあたしでもクリスマス如きでははしゃがないよー。ってか、クリスマスなんて特別でも何でもないじゃんかー。」
赤く悴んだ指を温めるために息を吹きかける。
ふー、ふー、……じゃなかった。
はー、はー、うん、これで暖かくなったらいいのにねー。二酸化炭素大量排出してやるっ!
ってか、速く地球滅亡しないかなー。
なんて、考えていますが物騒な人ではありません。
「お前、今すごいこと言ったぞ……」
彼があたしを見て驚きというよりもまるで絶滅危惧種に合ったような顔をしてあたしを見ている。うん、どんな例えだこれは。
「なんで?」
「いや、なんでって……」
特別、この言葉の意味なんておおよそ独りよがりの意見になりかねない。
特別だから、何?あたしならなる。
特別だから、浮気しても平気なのか?
違う、特別とは人独りが表すには膨大な感情が、ある。
例えば、特別なぬいぐるみ
例えば、特別な日
例えば、特別な人
人によって、“特別”は違う。
あたしにとって、クリスマスは特別じゃないだけだけど。
「確かに、世間一般から見たらクリスマスは特別な日だけどね。」
ふっと、笑いながら言うと彼は何やら驚いた顔をしていた。
「ほら、買い出しいこ?」
彼のコートの袖口を小さく引っ張って少し速く歩く。
ジングルベルが聞こえて、
クリスマスはもうすぐそこに。