すると、正紀は持っていた傘をあたしに手渡して、にっこり笑いかける。
「俺はもう振られてる!」
それは、吹っ切ったように明るくて、少し離れた咲奈にも届くくらいの大きな声で正紀は言った。
「もうとっくに、莉子に振られてんだ」
頭をボリボリ掻きながら、照れ臭そうに笑って、悲しみを隠している。
「俺たちは、ただの幼なじみ」
正紀は顔を上げてニカッと笑う。
「ベストフレンドってやつだっ!」
そう言ってわざとらしくあたしを抱きしめてからポンポンと頭を叩き、ボソッとあたしにしか聞こえないように呟いた。
「お前を幸せにしてくれる奴は絶対に居る」
そして、二人で居た傘の中から正紀は消えて、雨の中どこかへ走り出す。