正紀は一瞬戸惑った顔をして、でも、すぐに頭の後ろに手が添えられた。
子供の頃から知っているはずのその手は思っていたより大きくて、思っていたよりあたたかい。
思っていたより、男なんだと思った。
彼は、男の人なんだ。
正紀の顔が近付いてきて、あたしもそっと小さな覚悟を決ると、ギリギリの所で正紀の動きが止まった。
「いいのか?本当に」
「何よ、今更」
「俺はキス、したいけど…」
「なら、してよ」
そして、正紀は切ない顔を見せて、回していた手で頭を撫でる。
「咲奈の代わりにはなれない」
少し顔を苦しそうに歪めて、でも少し笑っていた。
「俺とキスしても、お前は幸せになれないよ」
あぁ、まただ。
あたしは結局彼を傷付けただけ。
また、大切な人を傷付けた。