咲奈の泣き顔が、頭染み付いて、
何度も何度もあたしを責める。
言葉はない。
でも、その顔であたしを否定する。
外は咲奈の涙くらい悲しい雨が降っていて、
空は咲奈の泣き顔みたいに曇っていた。
「…莉子?」
突然微かに聞こえた声の方を見ると、正紀が傘を指してそこに居た。
「何やってんだお前。風邪引くぞ」
正紀は心配そうに駆け寄ってきて、持っていた傘にあたしを居れてくれる。
あぁ、どうしてこんなに優しい人をあたしは好きにならなかったんだろう。
なれなかったんだろう。
ならないんだろう。
「学校、帰り」
「は?鞄も何も持ってねぇじゃん」
そう言われて気づいた。
咄嗟に教室を飛び出して来たのはいいが、手ぶらだった。
「何かあったのか?」
正紀の強張った声が、
「咲奈と」
頭の上から降ってきて。
あたしはまた涙を浮かべる。
でも、一番悲しいのは苦しいのは、きっと、絶対に咲奈の方だ。教室で一人この雨にも負けないくらい泣いているだろう。