出来ることなら、正紀になりたい。
彼女に、咲奈に愛された、正紀になりたい。
「ごめん、」
それは、咲奈の声よりも低くて、
酷く悲しいものだった。
ごめん。
その言葉の後に咲奈の望む言葉は繋がらない。
咲奈が振られた。
どうして?
あんなに温かくては可愛い咲奈がどうして?
でも、内心ホッとしている自分の醜さを呪う。
「あたしが嫌い?」
少し震えた鈴の音。
「そうじゃなくて…」
顔は見えないけど、多分正紀は申し訳ないような、困ったような顔をしている。
「好きなやつ、いるから」
そして、聞いたことのない、
正紀の恥ずかしそうなそれ。
咲奈が正紀の話をしている時の顔が浮かぶ。
正紀もそんな顔をしているの?
正紀が好きだと言った咲奈の前で?
なんて、残酷な…
「俺、莉子が好きなんだ」