正紀はそのまま尻餅をつき、驚いように殴られた頬を触ってから痛そうに片目を一瞬瞑った。
あたしも、正紀を殴った拳が痛い。
人を殴ったことなんてないから、知らなかった。
痛いのは殴られた方だけじゃなってこと。
知っていても、殴っただろう。
この男を。
「あたしは!あたしは…咲奈を泣かすような、咲奈の想いを軽くみるような、そんなやつを好きになんかならない!」
「莉子…」
「幼なじみだからとか、咲奈と出会う前からとか、そんなの関係ないでしょ!時間なんて関係ない!そこに想う気持ちがある!その大きさを他人が勝手に比べることなんて出来ない!」
「莉子、俺は別に…そんなつもりじゃ、」
正紀は地面の上で髪を握りながら、俯いていた。
そんなつもりじゃないことは、分かってる。
分かってるけど、そういうことでしょ?
じゃあ、正紀。
あたしのこれは、何?
幼なじみってほど、築いてきた時間も無ければ、異性ですらない彼女を想う、
これは、なんだって言うの?
そんなに薄っぺらいものではないよ、これは。