そんな私を照らしてくれたのが空だった。広くて綺麗で、優しくて。温かい。そんな、空は私をその黒い何かからそっと救ってくれた。唯一の私のよりどころだった。そして、それを理解しているのかしていないのか、分からないが正直に言ってこの人はそんな空の様な人だった。だから、私は彼を勝手に“空”とつけた。彼にとっては迷惑かもしれないけれど、私にとってはそんな存在なのだ。知らない人にも優しい目を向けてくれる人は、私が今まで会った人でもこの人だけなのだ。だから、居心地もいいし、温かく感じる。感じるから、もっといたいと思ってしまう。人間相手にそう思ったのは初めてで。少々私自身戸惑っているのは確かだった。最後、空さんは「仕事だから」と言って私から離れて行った。もっと、一緒にいたい気持ちが強かった私は、手を伸ばして彼のスーツの裾を掴んでいた。そんな私に、優しい笑みを向けてくれた空さんは、

「またね。」

 と、笑ってくれてそのままその場を去っていった。
 正直に話し等一切していない。まったくもって、雲の流れる空をただただ眺めていただけなのだ。それだけでも、心地よかった。心地好かったから我儘になってしまった。それでも、またね、と言ってくれた。その言葉は初めて他人からもらった。いや。昔。確かに昔。私がまだ親と手をつないで歩いていた時。友達と呼んでいた女の子とその言葉を交わしたことがあったような気もする。だけども、それも、もう。昔のことなのだ。だけど、言われたのは今もそうなのだ。私は、彼の背中が小さくなっていく前に足を地につけた。そして、

「ま、またね。また、また、待ってる。」

 気付いたら涙が出ていた。嬉しかったのか、分からない。空さんは片手をあげて私に応えてくれた。初めてだった。人と話したのは久しぶりだった。気付いたら泣くと言う行為も忘れていた。この人なら。空さんはら私を優しくしてくれるだろうか。ぼろぼろになった通学鞄を私は肩にひっさげて私もその場をあとにした。空は、とことん青くて、私を包み込んでくれるこの温かいものは一体どこからきているのだろうか。空を仰ぐと真っ白い雲がひとつ。ただ浮遊していた。
 




 空さんは、それから毎日会った。時間はまばらだったが、それと言った時間帯になれば殆ど現れた。その時間は殆どお昼頃で、私も学校を抜け出してはそこで空さんを待っていた。空さんは会う度にスーツで、毎日仕事をしているようだった。そこで、会話という会話は殆どなかったが、お互いがただそこにいてゆっくりと空を見上げた。その時間だけでも十分温かかった。温かいこの気持ちを人はなんて呼ぶんだっけ。その時期もあったような気もする。が、正直に言ってそれもあまりにも昔すぎて覚えていないのだ。その日は、空さんと会って4日目だった。

「あの。私のこと聞かないんですか。学生なのに此処にいる理由だとか。」

 私は、初めて空さんに尋ねてみた。普段は空さんがくだらない質問を私にしてくることが多々あったが、私からは全くと言っていいほどなかった。