『私、仕事がひと段落したの。近いうちに手紙が届くと思うのだけど、日本に帰ることになったわ。やっと、親子で暮らせることが出来るのよ。永い間一人で、そして、二人でよく頑張ったわね。これからは、お父さんが帰ってくるのを待ちましょう。一緒に。』



 その声音は、とても優しく私の心に沁み込んできたと同時に、衝撃事実により思考停止がきた。



「嘘。」

『嘘じゃないわ。来週には帰るからそれじゃぁ。また、来週ね。今週は何回か電話するわ。』



 私は、お母さんの言葉に「あ、うん。」と応えると、受話器を下ろそうとした。それを、察したのかお母さんが私の名前を呼ぶ。私は条件反射のように急いで耳に受話器を戻すと、お母さんは優しい声で、






『いってらっしゃい。』






 そう、言ってくれた。だから、私も、ゆっくりと口を開いたのだ。





「いってきます。」





 頬に降りた雫がいつもより温かく感じた。