あれから、彼は私に話をもちかけなかった。しかし、私は彼に話しかけられないと逆に不安になって仕方なくなった。どうして、あんなことを言ってしまったのだろうか。そう思って、口に運んでいくグラタンは熱くて何度も息を吹きかけていた時だった。それまで口を閉ざしていた彼がそっと口を開いた。


「きっと、君のお婆さんも君みたいに不器用だったんだよ。その、無表情。きっと遺伝だね。しかも劣勢と見た。大丈夫だよ。きちんと、お婆さんは君のこと知っていると思う。口に出さなくたって伝わっていると思う。君がどれだけお婆さんが好きだったか今の言葉でなんとなく受け取れた。君に無関心と言っていたね。多分、君と一緒でお婆さんも君と過ごすことに戸惑いと、そして、不器用が混じっていたのかもね。不器用どうしが揃うとどうしても、伝えたいことも伝わらないんだって思うよ。だから、ほら。大丈夫だから。」

「あなたって、本当に……意地悪だなって時々思いますよ。」

「困ったなぁ。君を泣かすつもりなんて全くなかったんだけど。」


 そう言って、彼は私の頬に手を伸ばしていつものようにぬぐってくれた。そして、困ったようにはにかむとそっと頬を包んでくれる。


 その一言が、その、行動が。一個一個に私のモノクロだった思い出までもが水彩の様に淡い色を付け加えてくれる。貴方って人はなんて卑怯なんでしょう。