「まさか、ファミレスとかも初めてなの。」


 彼がそう言うから、私はゆっくりと首を縦に振った。こういう、ところは一人では行かない。両親は健康に悪いと言って日本にいる間もこういうところに来たことがなかった。だから、基本は家での母の手作りであったし、お祖母ちゃんに預けられても、それは変わることがなかった。口数の少なかった婆と孫の生活は真っ白なキャンパスに鉛筆でそっと描かれるようなものであった。影は車線で、丁寧に直線は定規で引いて、角はきちんと直角で。そんな、色のないが丁寧な生活だった。ふっと、思い出した思い出はモノクロだが懐かしく感じた。こういうところは新しく色彩豊かだが、モノクロの思い出もまた私は好きだなっておもったのだった。そんな、私を見た彼はどこか興味深げに笑っていた。そして、


「何を思い出していたの。」


 と問いかけてきたので、私も口を開いた。


「祖母との思い出。彼女は、私に興味を全然持つような人じゃなかった。けども、たまに思い出したように私と食事をとったりとか一緒に買い物に出たりとかしていたんです。ですが、祖母は全然楽しそうじゃなかったんです。いつも、しわの寄った唇をへの字で、歳なのにぴんとした背筋は着物がよく栄えていました。そんな、祖母が一度だけ、私の誕生日を祝ってくれたんです。まだ、祖母の家に来た当初でした。私よりも、高い彼女の身長はとても威厳があって怖かったんです。何も出来ず、何も話せず私は祖母が何を言いたかったのか、祖母が何が好きだったのか全然わからなくて、しどろもどろで、家のことも何処までしていいのかわからない。そんな、時に私の誕生日が来たんです。その日も、祖母の家に変えることが憂鬱でした。ランドセルを背負いながら帰路をとぼとぼと帰っていました。学校での生活も何も変化しない一日だったなぁと、思っていたんです。そして、今日も苦手な祖母と一日一緒なのかと思うと、更に重く感じたんです。心が、こう、ずぅんって。そして、重い扉をあけて、小さな声で只今の声を出しても奥からお帰りの声もないのです。それは、いつものことだったからあまり気にもとめなかったんですが、靴を脱いでいざリビングに飛び込むと、綺麗に設営された部屋一面の飾りに、綺麗に施されたイチゴのショートケーキ。本当に、心から嬉しかったのに、私の表情はすでに強張っていたんでしょうね。その感情表現ができませんでした。そして、祖母は何も言ってきませんでした。その日は、結局祖母からおめでとうの言葉も、それ以上の会話もなく終わったんです。私って、本当に大切な物は失ってから気付くものなのだと思い知るんです。」


 死んだ祖母が私にあの時どのような感情を持ってああいうことをしたかったのか分からない。そして、それは大きくなってからも聞くことが出来なかった私の失態でもあった。そっと手元をみつめながら私は彼にこれ以上話すことがないために何も言わずただ、そうしていた。項垂れた私の頭はまるで後悔の念しか感じ取れなかった。その空気は少しだけ重かったが、直ぐに来た頼んだグラタンが届いてから少し軽くなった。それは、お互いに食べることに集中したからだろう。