結局彼のチョイスでどこにでもあるようなラブストーリーものを見ることになった。基本、読書とかでこういうのを読むのであまり抵抗はないんだけど、男性と観るとなるとちょっと、隣を意識してしまうというか。意外と近い隣同士で私は胸を高鳴らせてしまう。映画館の暗さにもそろそろ慣れてきた頃に上映となった。

 映画と言うものに一気にのめりこんでしまったのは、私が初めて此処に来たからだろう。出ている女優とか俳優とか、全然わからないし、この作品の原作も知らない。それでも、知らない人でも楽しめるものなのだと思う。気が付いたら隣に彼が居ることを忘れてのめり込んでいた。楽しいと思った。こんなにも人に影響出来るものがあるのかと思った。そして、エンドロールを眺めながら今だ熱が冷めない状況で私は映画館を後にした。



「映画って初めてでしたけど、すっごくわくわくしました。」



 私がそう言うと彼はふわりと笑う。



「それは、良かったよ。」



 そう言って再び私の手を引いたのです。次はどこに行こうかとか言う発言を聞きながら私はどこか家族のような感覚を持っていた。こんなにも温かい時間がまた戻ってきてくれたことが嬉しかった。きっと、あのまま私が彼に会うことを拒んでいたのなら、そのままだったのだろうか。でも、今回のこれも私一人の力じゃないのだと思った。あの、少年は今クラスで何をしているのだろうか。強く叩いてしまった左頬は大丈夫だと言っていた。それでも、少々腫れていたのをも覚えている。本当に大丈夫だったのだろうか。少し心配し始めた頃で私のお腹が盛大になった。思えば私はご飯を食べていない。基本食べていなくても生きていけるしあまりお腹が空いている状況と言うことも無い。だから、気付かなかったのだろう。盛大になったそれは、彼も気がついたようで、可笑しそうに笑っていた。私は、急に恥ずかしくなって彼を見ることが出来なくなった。それで、ふいと彼から顔をそらすと、彼はますます楽しそうにクスクス笑うから、きっと睨むと、流石に笑うのを止めたのだ。私は、唇を尖らしていると、また優しく撫で「それじゃ、昼食べに行こうか。」と言って再び私を連れて足を動かしたのだった。どうしたらいいのか分からずとりあえず、後ろについていくのに精いっぱいとなった。


 時刻はすでに3時であって、お昼の時刻ではなかった。寧ろお菓子の時間である。しかし、そのようなことはお構いなしに彼は、見た目が綺麗なお店に入って行った。そしてて、私にメニューを渡すと、彼は嬉しそうに頬杖をついて私を見ていた。普通よりも少し茶色い瞳の色に気が付いたり、意外とくせ毛なのだと思ったり。私は、彼のその整った顔を見つめていた。すると、形のいい薄い唇がそっと口を開いた。



「好きなのを選んでよ。俺、君の好きなの知らないんだ。」



 と、少し寂しげに瞳を光らせて言った。そして、私も、彼にあまり好きな物などを言っていない気がしたし、彼のことを知らな過ぎることに気が付いた。基本、会ったらこういう本を読んだりとかしただとか、話をしていたくらいだったからだ。だと言っても、私はこれと言って好きな物も嫌いな物も無い。どれもが、普遍的で、何もかもが普通に思ってしまっているからだ。それは、気が付いたらそうなっていて、意識して出来たものでもなかった。私は、メニューをただじっと見つめた。イタリアのファミレスなのだろう。イタリア系のものが多く、その多くがパスタ系だった。