結局。私は完全の姿で彼の前に出た。靴を履いてきちんとマフラーをしてコートを着ているそんな姿。彼は、携帯を眺めていたが、すぐに畳私と向き合った。そして、手を差し伸べてきてくれたので私はそっと、それに手を重ねると温かい手が包み込んでくれる。どこか嬉しくて気が付いたら頬が緩んでいた。でも、私は気がつかれないようにそっとマフラーで隠しながら彼の後ろをただ着いて行くことしかできなかった。
彼は電車に乗って何処に行くのかと思っていたら大きなショッピングモールだった。そこは、平日でも人がいっぱい溢れていた。不思議なくらいに多いこの人の多さに私は目を丸くせざる負えない。何せ、さっきも言った通り今は平日だ、なぜこんなに男女の人間が一杯いるのだろうか。不思議でならなかった。そんな私を知らないのだろう彼は相変わらず私の手を引いて先を歩いていた。歩くスピードは私に合わせてくれているのだろう。結構ゆっくりめでそれが妙にくすぐったく感じた。
モールの中は思っていた以上に温かくて今厚着している私が妙に浮いて見えるようだった。そんな私に気がついてか、彼はくすりと笑った。



「大丈夫。外は寒かったしね。」



 そう言って、私を安心させようとしたのだろうが、妙にその笑顔が輝いて見えてドキドキとした。そんなことを彼は知らないのだろう。でも、どうしてかかえってそれでいいとさえ思った。彼にこの感情を教えたらそれこそ何かが変わってしまいそうでこっちの方がかえって怖かったから。だから、私は今の時間をそっと噛みしめることしか出来ないのだ。そして、そう言う風にしかする気が起きないのだ。変化するから怖いからと私はきっとこれからも動くことが出来ないのだろう。自分の中で起きている良く分からない変化を理解しようともしないで私は彼に何かを期待しているのだ。

 そっと、繋がった手を見ながら私は胸を静かに高鳴らせた。

 そして、彼が足を止めると同時に私も足を止めた。なんなのだろうか、と思い顔をあげると、そこはモールに内設する映画館だった。目を丸くしていると彼が映画の検討に出た。何を見るかを考えているようで、ぶつぶつと呟きながら大きいポスターを見ていた。私は、その横で彼が何を選ぶかをただ見つめていた。それがいけなかったのだろうか。彼が一瞬だけ動きを止めると、



「君も一緒に選ぶの。」



 と言って隣に来るように腕を引いた。そして、どれがいい、と尋ねられながら迷ってしまった。何せ私はあまりテレビを見ない。映画も見に来たことなどない。結果どうしても迷う前に自分がどのようなジャンルが好きなのか自体まず把握しきれていない。そこに問題があって仕方ない気がする。そっと、彼を見る。そして、



「ごめん。映画初めてで。」



 と、ぽつりとつぶやくと彼はきょとんとした表情で私を一瞬見る。そして、ふわりと優しく笑むと、頭を撫でてくれた。まるではぐらかされたようにも思えなくはなかったけれど私はそれで落ち着いたのでいいとした。