「あの。ずっと、来なくてごめんなさい。ずっと、ずっと、本当は此処に来たかったですし、貴方に会いたいって思っていたんです。でも、怖かったんです。」

 私の始まりはこれだった。そんな意味のわからない謝罪から入ったのに、彼はただ私を見てそっと笑んでいた。
「私、小さいころからあまり人と接することをしたがらない子だったんです。人と接するとロクなことがないって思っていたので。自分の中に防衛線を張りました。親も、私が小学に上がる頃には祖母に預けて二人揃って海外転勤です。そして、祖母も元気な方ではなかったので病気がちで私には無反応であまり興味を示さなかった方なんです。幼いころからそこだけ強く接してしまったからでしょうか。あの時貴方が寂しくないのかっていう疑問の感情さえも全て消え去ってしまいました。何かが欲しいと思えば自分で買いに行きましたし料理などの家事全般は幼いながらこなしていました。祖母を看病しながらの小学生から中学生の生活でしたが、私が此処の高校に上がる直前くらいに亡くなったのです。そして、学校生活ではと言うと、私は人と接することがあまりにも少ないのです。人に話しかけられても身振り手振り程で終わらせてしまいます。プリント見せてと言われればプリントを渡したりするくらいの作業です。人と話すということをあまりしたくない人間だったんです。それが、疎ましかったのでしょう。女子たちは私に敵対意識を持つようになりました。最初はわざとぶつかるだけだったんですけど、どんどんエスカレートしたそれは私の教科書やらノートやらが随分と無残な姿に変えて行ったりもしたのです。よくわからない罵声などを浴びせられたりもしました。そのたびに、私はああ、此処には、私の居場所はないのだと思っていたんです。そして、昼休みになる度に彼女たちに逃げるようにして教室を出ました。此処を見つけたのは高校生になってからだったのです。昼休みになる度に此処に訪れて、そして、貴方と出会いました。私は、貴方と出会ってから、上塗りした寂しくないという感情が剥がれて行くのがわかったんです。寂しいという感情を持ってしまったら私は今までの私を全てだましてきたことになりそうで怖かったんです。寂しいという感情の上にある我慢すれば報われると言うおまじないは私にとっては心の糧でした。そして、それのおかげで私は今此処に居るのだと思うのです。両親がいなくてもやってこれたんだと思ったんです。でも、あの時、貴方が寂しくないのかっていう疑問のおかげでそれが少しずつ偽りだったのだと気がつかされました。でも、それを認めてしまったら私の中の何かが変わって行きそうで怖いんです。変わってしまったら私は、両親に我儘を言ってしまいそうで。私の中で始まる変化と言うものを簡単に受け入れられそうになく、寧ろ拒んでしまいそうで。そして、その変化は貴方と会って初めて起きる気がしたんです。だから、貴方に会うのを拒んでいました。ここ数日。来れなかったのはその理由です。すでに、私は我儘になってしまったのでしょうね。貴方が此処でずっと待っていてくれたのに。それに応えようとせずただ逃げていただけなんです。ただ、それだけのことで貴方を避けてしまって。本当にごめんなさい。」

 私は、言い終わると同時に一筋涙を流していた。