駆けだしても私が居ていい場所なんてないのだ。昼休みは教室は私の居場所じゃない。でも、少年と一緒にいるという理由も無い。私は、ただどこでもいい。一人になりたいだけでその為だけにがむしゃらに走っていた。だから気が付いたら私は上靴のままで外に出ていたのだ。靴なんて履き替えるって言う時間さえも惜しかった。ただ、本能のままがむしゃらに走って、走って走り続けて私は気が付いた。そっと、足を止めるとそこはあの展望台で。学校を少し上から見下ろせる。いつもの場所。そして、彼がそこにいた。学校を見下ろしながらまるで誰かを待っているようなその背中を見つけてしまった。抱きしめてしまいたい。そう思った。そう思ったら、足が動いた。ここ数日彼に取り繕わなかった私なのに、つい彼を見てしまうと足が動いてしまったのだ。これをきっと薄情と言うのだろう。分かっているのだ。だけども、見てしまったら、動いてしまったらそれはそれで全てが覆されてしまって。変わりたくないって思うのに、変わってもいいかもしれないと思ってしまうのも全てこの人が私の目の前に現れてからだった。そっと、手を伸ばして彼に触れようとした時だった。私は、凄い勢いで前のめりにバランスを崩した。そして、気が付いたらの胸に飛び込んでいたのだ。

 私が、手を伸ばしたと同時に彼が振りむき私の手を引っ張ったということが分かった。そして、いつもの優しい彼の温もりで私は温まった。

「遅い。」
「…………。」
「ごめん。」
「……っ」

 小さく呟いた「ごめん」は、本当は私が言う言葉であったはず。なぜ彼が私の為に言わなくてはならないのか。私には分らなかった。ただ、私の背中に回している彼の手が強く強く私を抱きしめている為どうしていいか分からず、私もただ彼の背中に手を回すことしかできなかった。

「ごめ、なさい。ごめんなさい。ごめんなさい…。」

 私が謝ると彼は更に腕に力をいれる。まるで、大丈夫だと言ってくれているようで。私のせいで何日間も彼はここで待ちぼうけしていたのだろうか。そう思うと申し訳ない気持ちでいっぱいだった。けれども、彼は気が付いているのだろう。私の何かがそっと此処に来ることを拒んでいたことを。何かを失うことがないように私は防衛してしまったんだと。でも、分かっていないのかもしれない。彼がただ、私が来なかったのは自分のせいなのだと攻めてしまったのならきちんと謝ろうと思ったのかもしれない。だから、私はきちんと彼に言うのだ。全てを。学校のことも、家のことも、私の中でそっと起き始めている変化のことを。全て、全てを。何かが変わると言うのは恐怖で、これを言って彼は私を軽蔑しないのか分からない。分からないけれども、言うしかない。私たちはそれらを口にして初めて知りあえる気がしたのだ。そっと、私は彼から離れると向き合う体制に入り私はそっと、口を開いた。