これは、一体どういうことでしょうか。あまりにも驚いたので、つい少年を凝視してしまった。すると、少年は素知らぬ顔で私を見ていた。そして、私は、この人の雰囲気もどことなく彼と重なってしまった。

「なに。そんなに嬉しそうな表情してさ。君Mだったの。」
「違うっ。」
「はは、そう睨まないでよ。冗談じゃん。むしろ、君は無害に見える。他人に接することをおそれているでしょ。だから。何もしないから良い意味でも悪い意味でも人には刺激を与えることがない存在に見えてならない。だから、無害。君と居ても害はなさそうだしねぇ。だから、俺は君とお近づきになりたい訳。あまり、女子の中でもそういう子はいないからさ。少し興味を持ったっていうのもあるけど、一緒にいてあまり干渉とかしなさそうだから楽そうって思ったのもひとつ。ってことで、どう。俺さ君と仲良くなりたいんだけど。」

 そう言って見せた笑顔はあの女子たちに向けるような愛想笑いの様な面影は全くなかった。そして、私はこの人に言う言葉はひとつしかなかった。

「お断りしておきます。私は別に友達が欲しいとかそんなのどうでもいいんですよ。ただ、人と接することを拒絶してるんです。これ以上私に入ってこないでください。構わないでください。」

 それなら、私は彼をどのようにみているのだろうか。なぜ私は彼と接したのだろうか。私が言っている発言と彼と接したことに凄く矛盾しているように思えた。そして、そんな自分が凄く吐き気がした。

 そんな私の変化にこの人は簡単に気が付いたのだろうか。怪しく上がっていた口角は更に怪しく上げて私を上から見下ろすのです。腕組は相変わらず変えずにただ私を見つめるのです。私は下から睨みをかけるのですが、どうやら少年にとってはそういうのは利かなかったのか寧ろ余裕そうに笑みを浮かべるだけで、更にイライラが増していく。

「じゃあ。君はさっき何処に行こうとしたんだい。靴を持って外に出ようとしていた。しかも無意識に。でも、何かを思い出したようにすぐに靴を終いしゃがみこみ動かなくなった。まるで、誰かに会いに行こうと思っていたのに何かが君を阻んだような。そう言う風に見えた。それじゃ、君が今人を拒絶しているという発言に矛盾が生まれるよね。そこら辺はどうなの。」

 私は、少年の観察力が恐ろしく思った。どうして、ここまであてるのだろうか。分からなかった。でも、それほどまでに私の行動ひとつでわかるのだから、この人は私を見ているのだと分かったのと、この人は人間観察が得意のだということに頷いた。そして、この人には嘘は言えないのだと思った。だから、私も意地を張ったのだろう。彼を睨みつけると、右手を大きく振った。そして、パァンと激しい音がした後に私は、

「うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。貴方の言っていることは当たっているわよ。でも、だからどうしたっていうのよ。貴方には関係ないじゃない。これ以上私に踏み込んでこないで。」

 そう言って、叩かれた頬をおさえている少年の横をすり抜けるように私は空き教室を後にしたのだ。