あの日から、私はあの場所には行っていない。どうしてなのか分からない。けれど、彼と会うと何かが胸の奥底で変わってく自分が怖くて会えなくなったのだ。彼は、今もまだあそこに足を運んでいるのだろうかと思うととても胸が痛くなった。今でも時々昼休みになるとあの展望台を気にする。そして、気が付いたら靴箱へと足を向けていたことに気づく。でも、そこまでだった。これ以上は足を動かすことが出来なくて、そのまま靴を戻して私は教室に戻るのだ。私が戻ると女子たちの甲高い笑い声は消えた。そして、私を一瞥すると小さく舌打ちをするのだ。最近では、虐めという行為は少し優しくなった気がする。女子たちのどのような行為にも屈することなく私が高校に通い詰めたからだろう。面白くなくなったのだろう。飽きたのだろうかと思うと少し楽になった。だが、それでも人間以外の生物を見る目と扱いは相変わらず変わることはなかったのだけれども。それでも、今では少し教室には、居やすかった。誰も、私と話をしようとは思わないのだろうが、かえってそれが心地良かった。窓際の一番最後の席は陽が当たる。とてもぽかぽかとした空気に私は此処が一個の居場所なのだと思っていたしそれに不満はなかったから。ただ、ちょっとだけ彼の場所にはどうやって戻ったらいいのだろうかと考える時間が増えたくらいだろうか。私には、見つけることが出来ない問題がもんもんと繰り返し頭によぎる度に私は不貞寝をするのであった。

 そんな、日だった。空は朝から快晴で、冬らしい冷たい空気が肌を刺激する日だった。この時期には珍しい転校生が私のクラスに来た。すらりとした長身に、細い体に、女子も嫉妬をしそうなほどの白い肌に体に対して小さめの顔。さらりとした黒髪にそれに見合うかのような釣り目と肌と対称な真っ赤な唇。どこからどうみてもカッコイイという形容詞の合う男の子が、私たちの高校の制服ではない制服を着用して教壇に立っていた。きっと、此処の制服が間に合わなかったのだろう。女子が、予想道理に盛り上がっていた。私は、転入生と言う少年には興味はあった。が、女子の枠で考えるのはあまり興味はなかった。先生と転入生の淡々とした紹介を終わらせると、先生は、少年に私の隣の席が空いていると指示をして座るように促した。そして、ここで軽く合点がついた。私の隣の空いている席があるなとは気がついていたが今になって少年が来ることだったのだと。女子の私の隣と言う意見に対するブーイングと歓喜の交わった声を遠くで聞きながら少年がこちらに座るまでただ見つめていた。少年の動きのひとつひとつが優雅である。ひとつ動くたびにそこの空気が変わるかのようであった。そして、少年を見てどうしてか彼と重なって見えてしまった。分からないけれど、面影がどこか似ていると思ってしまったのだ。だが、それはあくまでも他人の空似であって彼と少年とは何も関係がないのだ。こう思われてしまっている方が迷惑で仕方ないのだろう