だから、もうひと踏ん張りなのだと心で呟くたびに私は安心するのだ。それだけがよりどころなのだ。月に一度送られてくる二人からの便りは必ず丁寧にまとめ綺麗に保存していた。

 その上に、今は保護者枠の人がいなくてさえも成り立つ年齢へと成長した。親の要望では大学までは進学してほしいと願っていた為に私は進学を余儀なくされた。本当は、働いて両親に早く帰ってきてほしいということが強いのだが、これは、私の我儘となるので素直に頷いて高校へと進学をしたまでだった。小学時代からあまり人間と関わることを断っていた私だ。高校でも上手くいくはずがなかったようで、今ではこのありさまである。

 それなのに、今隣には彼がいて何故か温かい手で私の手を包んでくれていた。真っ暗な言えでさえも、どこか温かく感じた。

「え、この家に一人なの。」
「はい。そうです。」
「……。」
「どうしましたか。」
「いや。寂しくないかなって思って。」

 その言葉に私は、驚いた。その感覚はすでになくなっていたためである。寂しいという考えはいつの間にか上塗りされた我慢と言う言葉によって消えてしまっていた。私には、すでに存在することがない言葉。だから、彼の口からその単語が出た時には私は少なからず目を見開いた。驚いたからと言ったら全てひっくるめてそうなるのだろうが、何か根本的な何かが私を捕えたから。とらえて離れないから私は目を見開いた。そして、彼と繋がっている手を見つめただ、ゆっくりと首を横に振った。寂しい、と言ったらこれは全て終わるのだろうか。お母さんは帰ってくるのだろうか。お父さんは帰ってくるのだろうか。私は、それを口にしていいのだろうか。上塗りされたこの感情はぺりぺりとはがれ始め私のその奥底に眠っている何かがむくむくと膨れ上がってくるのがなんとなく分かった。それは、幼かった私が防衛の様に作ったものの一つだった。その一つが剥がれ始めた今、私はどうしたらいいのだろうか。分からなくなった。ただ、目の前で優しい笑みを浮かべ私を見つめてくれている彼の顔はどこか安心する。寂しくない日々なんてなかたわけじゃない。ただ、それを忘れてしまっただけ。

 そっと、彼から私は手を離した。あまりにも、長らく此処にいたら私は何かが変わってしまうって思ったから。

「わ、私。もう、入るね。ここまで送ってくれてありがとうございます。」

 そして、私は最後まで彼を見ることが出来なかった。ただ、見つめていた先は足下で、自らのつま先をただ見つめることしかできなかったから。声がどもってしまった。本当は、彼に久しぶりに緩んだ頬を更に緩ませて笑顔でバイバイを言いたかったのだが、彼に見つめられているとどうしてかそれが出来なかった。彼のもつ何かが私を大きく変えそうで怖かったから。見ることが出来ず、ただ繋がっていた手は彼の温もりを持ったまま私は、彼に背を向けたのだった。