それから40分。




伊波さんと会う時間になった。




伊波さん…。




会うのが辛い。




今すぐにでも帰りたい。




…一目会ったら帰ろう。




「…おい」




上から声がして、顔を上げる。




「あ…」




マフラーを巻いて立ってる伊波さんがいた。




「伊波さん…」




「…何かあった?
元気ない」




「えっと…ちょっと…」




「そう」




…ヤバい、まともに伊波さんの顔が見れない。




「あ、あの…」




「泣いた?」




「え?」




下を向いていた私は、またしても顔を上げる。




すると、伊波さんは私の顔を覗きこんでいたらしく、距離が一気に縮んだ。




い、伊波さんの顔がすごく近くに…!




パクパクと口を動かす私に、伊波さんはふっと笑って



「金魚みてぇ」




とクスクス笑った。




…あぁ、やっぱり私、伊波さんの笑ってる顔が好きだ。




でも…。




フラッシュバックがかかったみたいに、伊波さんと隣を歩いていた女の人のことを思い出す。




またズキッと傷んだ。




「…何で泣いたの?」




「……」




言えない。




伊波さんと彼女さん?らしき人が一緒に歩いてるのを見て、悲しくなって泣いたなんて言えない…。




「き、気にしないでください」




「気にすんなって方が気になる」




「うっ…」




どうしよー…。




本当のこと言おうか…。




よし。




「えっと…。
私最近気になる人ができたんです。
でも今日…その人が女の人と歩いてるのを見ちゃって…。
何かすごく…悲しくなって…」




ダメだ、また涙が…。




すると、優しく暖かいものに包まれた。




えっ!?




伊波さんが抱きしめてきたのだ。




「伊波さん…?」




「……」




何も答えてくれない。





…何で抱きしめくれるんだろう…。




何でこんなに優しくしてくれるんだろう…。




こんなことされても、むなしくなるだけなのに…。




私は両手で伊波さんの体を押して引き離した。




「…やめてください。
彼女がいるのにこんなことするなんて…ズルいです」



私は伊波さんの目を見て言った後、走り出した。




「あっ、おい!」




ひき止める言葉も聞かず、私は走り続けた。




わたし、最低だ。




これじゃもう伊波さんに会えない…。




会わす顔もない…。




走る私に、涙は横に流れていった。