「そんなある日、小春がオレの前に現れたんだ」
「転入した時?」
出会いを思い出しながら問うと、リクがコクリと頷いた。
「でも、小春はオレの事覚えてなかっただろ?」
「ご、ごめんね」
どう思い出してみても、その頃の私はすっかりリクとの約束を忘れてしまっていた。
謝った私に、リクは小さく笑ってかぶりを振る。
「正直ショックだったけど、いつか思い出してくれるまで内緒にしておこうなんて思って、黙ってた」
忘れてる仕返しに、ちょっと驚かせるのもいいかなというイタズラ心だったらしい。
でも、黙ってたつもりが言えなくなったのだと、リクは教えてくれた。
「小春の幸せそうな笑顔を見ると、嬉しいのに、怖くてさ。小春を大切に感じれば感じるほど、母さんの最後の瞬間が頭ん中に浮かんじゃうんだ」
語るリクの瞳に、弱さが滲む。
「お袋の事もあったし、余計に嫌な想像ばっかするようになって……気づいたら、雁字搦め」
リクは自虐的で泣きそうな笑みを浮かべた。