「付き合ってないし、好きでもないよ」

「ええっ? だって、新谷に聞かれた時、なんかちょっと幸せそうな顔してたよ?」

「あれは、小春の事考えてたから」


わ、たし?

どうしてそこで私の事になるのかわからなくて首を傾げると、リクが困ったように柔らかく笑う。


「ごめんな。オレ、小春に隠し事多いよな。ちゃんと説明する」


そう言ってパイプ椅子に腰を下ろすと、僅かに寂しそうな笑みを私へと向け、話し始めた。


「約束の事は……言えなかったんだ」


リクの視線が、自分の手にあるブローチへと注がれる。


「小春が約束とこのブローチをくれた日、オレ、今の家に引越しする日でさ。小春に会いたくても、子供にはどうしようもない距離だったから、公園に行くことは出来なかった」


桜の木のある公園は、私たちの街の最寄り駅から電車に乗って一時間半程の距離。

確かにそれは、小さな子供には遠く感じるものだ。


「会えなかったけど、小春がくれた約束はオレを支えてくれてて。強くなろうって、泣かないぞって、子供ゴコロに決めてた」


小春が、泣くだけだったオレを変えてくれたんだよ。

優しい声で言われて、なんだか照れくささを覚える。

だけど、リクの支えになれていた事が、とても嬉しかった。