「手伝ってくれてありがとう。この黒板、大きいから実は大変で」
「先生、背低いっすもんね。大変そうやなあって実は前から思ってました」
「片瀬くんは、おっきいよね」
「そうっすね」
「身長いくつ?」
「えーっと。あれ? 何センチやったっけな、俺」
忘れちゃいました、と言って彼は耳のうしろを掻いた。
華やかな外見から想像していたのとは違う、素朴な雰囲気の子だと、そのとき思った。
彼を実際より派手に見せているのは、
整った精悍な顔立ちだったり、
他の生徒よりずっと高い位置にある腰骨だったり、
大企業の役員を務めている父親の存在だ。
そして瑠衣自身は、そういったものにあまり関心がなさそうだった。
生まれながらに恵まれた自分を、自覚していない少年。
苦手なタイプだ、とわたしは感じた。