「先生の授業って、わかりやすいですよね」
黒板消しを右から左に滑らせるわたしの手を、その声が止めた。
振り返ると、濃紺のブレザーを着崩した背の高い男が立っていた。
いや、“男”という言い方はふさわしくない。
正しくは“男の子”が立っていた。
「俺、英語は水野先生の授業が一番好きです」
「ああ、それはどうも」
愛想笑いでお礼を言って再び黒板に向き直ると、彼はわたしの手から黒板消しをひょいと奪った。
「手伝います」
「えっ、いいよ」
「やりますって」
「……んじゃ、お願い」
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