海に来たのなんか何年ぶりだろう。


梅雨時の誰もいないビーチは、雨が降っていないにもかかわらず砂がどこか湿気を帯びている。


波の表面は、曇り空の弱々しい光を懸命に反射していた。


「なんでこの時期に海なわけ?」


潮風にあおられて顔にはりつく髪を、かきあげながらわたしは聞いた。


「初デートといえば、やっぱ海かなーって」

「はあ」


デート、ねえ……。

いまいちピンとこないわたしは、すげない返事をする。


歩くたびにヒールが砂にざくざく埋まり、奇妙な感覚がなんだか楽しい。


満ち潮の海はどこまでも追ってきそうだ。

その波打ち際を、瑠衣は歩いた。


波が押してきては逃げ、大声ではしゃぐ。

時々スニーカーの中に水が入り、冷たさに顔をしかめ、笑う。


そんな彼の無邪気さを、わたしはただそばで見ていた。

彼が笑えば、つられてわたしも笑った。


濁った海と、曇り空の下で、瑠衣のシャツだけが白い。

きれいなものも汚いものも、跳ね返してしまいそうな眩い白。


17歳……なんだよな。

今さらながら、しみじみ思った。





しばらくすると天気が変わった。


ふと頬に冷たい感触があったかと思うと、次の瞬間には雨が音を立てて打ちつけた。