入り口の自動ドアに人影が映るたび、そわそわした。

それが瑠衣じゃないことを確認し、そのたび小さく息を吐いた。


彼は、なかなか現れなかった。


わたしは文庫本を再び開いた。

ただ自分の顔をうつむかせるためだけに、本を読む。

時間はさらさらと流れていった。

入れ替わるまわりの席の客と、ちっとも進まない本のページ。


時計の短い針が半周したころ、うつむくわたしの視界に人影が入った。


それが彼だということを、顔を上げる前にわかってしまった自分に、驚いた。


「先生っ、遅れてすみません!」


瑠衣はわたしを見つけると、こちらの席まで一直線に走ってきた。

額に、汗の粒が見える。


「めっちゃ待たせましたよね」

「いや、いいよ。本読んでたし」

「ほんま……すみません。今日に限って授業が長引いて」