「なんか、ごめんね」


校舎を出たところでつぶやくと、栗島くんは「え?」とふりかえった。


わたしを見下ろす、一重まぶたの幼い顔。

目線が高い。

いつも瑠衣の横にいるから気づかなかったけど、彼もけっこう長身なんだ。


そんなことを思いながら、小さな声で続けた。


「さっき変なとこ見せてごめん。しかも助けてもらったし」

「いや、全然っすよ。
て言うか俺、山崎先生のこと正直嫌いなんで」


その言葉で、わたしは以前瑠衣から聞いた話を思い出した。

たしか彼らと同じ中学出身の子が、山崎に捨てられたんだっけ。


それを一瞬言いかけて、飲みこむ。

わたしと瑠衣が個人的に話したことを、きっと栗島くんは知らないだろうから。


「先生、あいつに言い寄られてるみたいやけど、本気にしない方がいいっすよ。
ここだけの話めっちゃ女グセ悪いみたいやし」

「うん……そうやね。気をつけるよ」


目を合わせながらうなずくと、栗島くんは


「水野先生までだまされなくてよかった」


と微笑んだ。



無垢な表情に、さすがに少しだけ良心が痛む。


瑠衣といい、栗島くんといい、ちょっと女を美化しすぎなんじゃない? 

なんてわたしが言える立場じゃないけど。



「あ、そうや! 先生、今から時間あります?」