職員室は、いつも通りざわめいている。

授業の準備をする講師、
教材テキストの業者、
数人の生徒たち。


そんな中でわたしの席だけが、妙な緊張感に包まれていた。


「えっと、この文章は過去完了やから、ここは過去分詞でしょ?」


番号に気づかないふりをして、わたしは事務的に説明を続けた。

瑠衣は変わらず相づちをうち、熱心に耳をかたむけている。


「――理解できた?」

「はい。ばっちりです」


笑顔でうなずく彼に、ノートを閉じて手渡した。


「ありがとうございました。また来てもいいっすか?」

「……もちろん」


わたしの声は、上ずっていなかっただろうか。

口元が引きつらないようにするのが、精一杯だった。


職員室から出て行く彼の背中を見ながら思う。

いったい、わたしは何を動揺してるんだ。


こんな職場だし、興味本位で近づいてくる生徒は今までだっていたはずなのに……。