ポケットで携帯電話が震えている。
小刻みな振動は、新しいメールがきたことをわたしに伝えた。
送り主の名前を見てため息をつく。
また、あいつか。
『俺、何か怒らせるようなこと君にしたかな?
もしかしてこないだ娘を優先して帰ったこと?
あの日は本当にごめん。
こんどはもっと時間作るから』
数学講師の山崎とは、あの夜を最後に体の関係を持っていない。
急にそっけなくなったわたしに、山崎はしつこくメールを送ってくる。
ごめん、なんてあやまられても困るんだ。
別にわたしは怒っていないし、時間を作ってなんて頼んだ覚えもない。
ただ、彼に興味を失っただけで。
すっかりしらけた気持ちで、わたしは届いたばかりのメールを削除する。
そして予備校の受付で事務的な用事を受付ですまし、教室に戻ろうとしたときだった。
「瑠衣、こないだのテストどうやった?」