わたしは母の問いに「うん」と答えながら、床に手を伸ばし、
陶器の破片をそっと拾った。

細く尖った先端で、指先が切れた。

痛みに顔をしかめた。

血がにじんだ。


それと同時だった。


『叔父さん、――いなくなったんよ』
 

母は、信じられないことを告げた。


「え?」


ぷっくりと玉になる赤い血を見ながら、わたしは携帯を耳に当てて聞き返す。


『工場が、つぶれて、借金が膨れすぎてみたいで。昨日の晩、夜逃げするのを近所の人が見たって、電話が』
 

うまく整理できていない日本語が、恐ろしいほど現実的に、叔父の失踪を突きつける。


「嘘やろ?」


それでもまだ信じられなかった。


『嘘ちゃうの。わたしもビックリして、さっきお父さんと一緒に見に行ってきたから』
 

いったい何を見たというのか。

“もぬけの殻”ってやつ?
 

嘘だ。

そんなの絶対に嘘。

わたしは頑なに否定した。
 


だって、

今日こそ叔父に会いに行くんだから……。


過去にケリをつけて、前に進むんだから……。