叔父と対峙する場面を想像すると、否応なしに体が拒否反応を示す。

海のど真ん中に捨てられて、荒波で頬を叩かれているような感覚。

なさけない。

本当は、怖いんだ。
 

瑠衣は察して何も言わずに、ただ抱きしめてくれた。


「……わたしね」
 

彼の胸元で息を吸い込んで、つぶやいた。


「瑠衣を好きになってよかったよ」
 

言わずにはいられなかった。

こんなありふれた言葉に集約できるわけがないと知っていても。
 

過去の恐怖に立ち向かうための、盾になるものがひとつでもあるとするのなら。

それは紛れもなく、瑠衣を想うこの心。


「辛いときは、すぐに俺を呼んでな」
 

わたしの髪にキスをして、瑠衣が言う。


「葵のことは、ちゃんと俺に守らせてほしいから」


心から人を愛したとき、弱くなってしまうのではなく、誰よりも強くなりたいと思った。


ふたりの未来のために。

そして、今でも心のどこかで泣いている、6歳の自分のために。


強くなれると、このときはたしかに思ったんだ。


 





冬になると大学入試が目前に迫り、わたしたちが予備校以外で会うことはなくなった。
 

だけど寂しくはなかった。


瑠衣の受験、わたしの過去との決別、

それぞれ違う場所で戦っていても、見ている方向は同じだと思えたから。
 

2月4日。


瑠衣の入試の日。


そして――わたしが叔父に会いにいくはずだった日。
 


いつもより早く起きて携帯を見ると、瑠衣からメールが届いていた。


【今から試験会場へ向かいます。葵は今日、叔父さんに会いに行くんやろ?

頑張れ!そして、一緒に笑おうな】