外はいつの間にか小雨が降って、濡れた地面から街路樹のにおいが漂っていた。


生ぬるい空気とは対照的に、春の雨は冷たく、体温を奪っていく。


わたしたちはタクシーが拾えそうな通りまで小走りした。

時間帯や天候のせいか、どの車もすでに先客を乗せていた。


「まいったね」


こんな夜中まで生徒を引き止めて、さらに雨で風邪をひかせたりしたら大変だ。

早く、この子を帰さなくちゃ……。


信号待ちしている列の中にやっと空車を見つけ、わたしは手を挙げた。

タクシーは車線を変更し、こちらに向かってくる。

ヘッドライトに目を細めると、光の中に、雨の筋が見えた。


「さ、乗って」

「先生は?」


濡れた前髪のすき間から、心配そうな瞳で見下ろす瑠衣。

開いたドアの方に瑠衣の背中を押して、わたしは答える。


「うちは反対方向やから。
てゆうか遅くまで付き合わせてごめんね。
風邪、ひかないように――」


だけどわたしの言葉は、そこでさえぎられた。


「俺より先生の方が心配やし」

「え?」