ゆっくりと廊下を歩く。


何度か瑠衣と一緒に歩いた廊下。


わたしがひとりで歩いているときも、しょっちゅう声をかけてくれたっけ。



徐々に近づいてくるのは、使い慣れた教室。


チャイムはまだ鳴っていない。

だけど教室の窓からは、何人か生徒が座っているのが見えた。


わたしは入り口の前で足を止め、もう一度深呼吸をした。


そのときだった。



「えっ! じゃあ水野先生の噂ってマジなん?」


教室から聞こえた生徒の声が、胸をえぐった。


「マジらしいで。彼氏取られた子もいるらしいし」

「うっそ、最悪やん!」


膝が、ガクガクと震えだす。

悪口を言われていることに震えているんじゃない。



窓ガラス越しに見える横顔に

見覚えがあったからだ――。



「ホンマ、あんな女は講師失格って感じ」



少しハスキーな声。


化粧っ気のない涼しげな顔立ち。



わたしはこの女の子を、よく知っている……。





――『先生の周りに男子がいるときは、なるべくわたしも近くにいるようにします』




――『瑠衣が、水野先生はいい人やって言ってたから。

あいつが大切にしてる人は、わたしにとっても大事な存在なんで』