「なっ、何でもないねん」


明るく言って、栗島くんから手紙をひったくる。

だけど彼は難しい表情のままだ。


「書いたのは誰ですか?」

「……さあ」


そんなの、わたしに見当がつくわけない。

変な噂は以前からたてられていたんだから。


だけど涼子ちゃんが守ってくれるようになってからは、噂も一時おさまってた。


それがまたぶり返しただけのことなんだ。


「俺、先生の授業受けてた連中に聞いてきます!」

「やめてっ」


走り出そうとした栗島くんの腕を、必死でつかんで止めた。


「ホンマに、わたしはいいから」

「なんで? こんなこと書かれてムカつかないんですか?」

「そりゃあ嫌やけど……」


しばらく考えて、わたしはまだ誰にも言うつもりがなかったことを、打ち明けた。


「あのね、あと少しの間やから波風立てたくないの」

「え?」

「わたし……今月いっぱいで講師の仕事やめるから」


そう、それはわたしがひそかに抱いていた決意だった。