その日の夜遅くに瑠衣は帰っていった。


彼の家は明日から引越しの準備で、今月いっぱいは予備校にも出られないらしい。


「次に先生に会えんの、いつかな」

「すぐ会えるよ」


名残惜しそうな瑠衣に、わたしは答えた。


そして遠ざかっていくエンジンの音を聞きながら、

わたしは胸に秘めたある決意を固めていた……。








1月4日。

予備校の冬期講習が開始。


教室に並ぶ生徒たちは、誰もかれも正月気分が抜けていない寝ぼけ顔だ。

あくびをかみ殺そうともせず、あちこちで気の抜けた吐息が聞こえる。


それでもわたしは瑠衣がいない予備校で、以前よりずっと真剣に授業に取り組んでいた。


「じゃあ、186ページを開いてください」


教科書に目を落としながら言ったとき、教室の後ろの方から、奇妙な笑い声がかすかに上がった。