頭が真っ白になり、全身からみるみる血の気が引いていく。


「あの……っ」

「瑠衣! いつの間に来てたん!?」


涼子ちゃんの発した甲高い声が、わたしのつぶやきを消した。

階段を駆け下りてきた彼女はバシバシと瑠衣の背中を叩き、勢いよくどやし始める。


「何なん? 連絡しても返事ないから心配したのに。
来てたんやったら声くらいかけてよ、もう!」

「すまん。ちゅーか痛いわっ」

瑠衣が顔をしかめると、涼子ちゃんは


「痛くなかったらお仕置きにならんやろ」

と言って笑った。


いつも通りだった。

さばけた口調も、同性の友人のような媚びない表情も、すべて普段通りの涼子ちゃんだ。


だけど、わたしの胸の底には不安が積もっていく。

言うならばたぶん女の勘。

ううん、同じ男を好きになった者の勘。



――涼子ちゃん。もしかしてさっきのやり取りを、見た?