とっさに思い出して、鞄から瑠衣の携帯を出して返した。

「持ってきてくれたんや。ありがとう」

「……何回か、電話かかってきてたよ」

「そう」


瑠衣は着信履歴を見ようともせず、携帯をポケットにしまう。

そして、何かに気づいたように笑った。

「どうしたん?」

「いや、なんか俺って単純やなあって。
先生と離れてるときは携帯ばっかり気にしてんのに、それ以外はほったらかしやもんな」

「………」


でもね、瑠衣。


その携帯を何度も鳴らしたのは、涼子ちゃんなの。

わたしと同じように、あなたに恋してる女の子なんだよ?


「先生、やっぱり暗い顔してる」


黙りこんだわたしの頭に、瑠衣はまた優しく手を置いた。


どうしてだろう。

瑠衣の前で、わたしは感情を隠すのが下手になる。

不安や寂しさ、そして好きという気持ちも、すべてさらけ出してしまう。
 

それはきっと瑠衣にとって喜ばしいことなんだろう。


だけど今だけは、この気持ちを悟られたくない。


「そろそろ帰ろっか」


努めて明るく言って、地上に続く階段を見上げた。



あ、と無意識に声が出た。



涼子ちゃんが、そこに立ってわたしたちを見下ろしていたから。