昨夜の出来事を思い出し、瑠衣の表情がわずかに曇った。


幸せだったはずの家庭が実は崩れていたなんて――きっと、夢ならいいと願って昨日は眠りについたんだろう。


わたしはクローゼットから瑠衣のコートを取り出し、そっと手渡した。


「親御さん、心配してるやろうから、早く帰った方がいいよ」

「うん」


意外と素直にうなずいた彼を見て内心ホッとする。

一晩眠って少しは落ち着いたみたいだ。


「俺、今日は逃げずに話し合います」


ひざの上でぎゅっと拳を握り、瑠衣は言った。


「親の本音、ちゃんと聞きたいし。俺も言いたいから」

「……頑張ってね」


窓から朝日が差し込む部屋で、瑠衣は自分を奮い立たせるように大きく伸びをした。

しなやかなその腕は、まるで未来に向かって伸びているようだ。


「あ、それから、ひとつだけ聞いてもいいですか?」


急にいじらしい声になり、瑠衣はわたしに顔を近づけた。


「昨日言ってくれたこと……信じていいんやんな?」

「え?」

「俺のこと、好きって」