瑠衣のお父さんが帰ってくるのは9時くらいだから、それまで一緒にいることにした。


たった1時間だけの、短いデート。


だからこそ、この夜の空気や彼の仕草を、何ひとつ色あせることなく鮮明に覚えてる。



つないだ手を瑠衣のコートのポケットに入れて、クリスマスでにぎわう街を歩いた。


そうしていると色んな現実が朧にかすんでいくようだった。


先生と生徒という立場とか、

ふたりの年齢差とか、

わたしの過去とか、


すべて――。




けっこう歩いた所で、ひときわ明るいイルミネーションを見つけた。


「何やろう、これ」


立て看板には“クリスマス・マーケット”と書いてある。


「行ってみる?」


瑠衣の提案に、わたしはうなずいた。


木々を飾るオレンジ色の電飾の中を、看板の矢印にしたがい進んでいく。


建物の角を曲がると、広場に出た。