「あ、クリスマスツリー」


ふと瑠衣が言った。


「何?」

「ほら、あそこ」

と瑠衣は窓に顔を近づける。


彼の視線を追ってみると、車窓から見えるビルの壁が、ツリーを模った電飾で飾られていた。


「きれい……」


わたしがつぶやいている間にも、電車はどんどん移動してビルから離れていく。


小さくなるツリーの灯りを追うように視線を動かしたら、隣の瑠衣と目が合った。


「……っ」

「先生」


ささやくような声で瑠衣が言った。


「次の駅で降りよっか」


突然のことすぎて、言葉の意味が理解できなかった。


次で降りる? 
なんで……?


「クリスマスデート」


そう言って微笑んだ瑠衣の手が、わたしをつかんだ。


温かい。


戸惑いとときめきが、交差する。



『――F駅です』


アナウンスと共に電車がゆっくりと停車した。


『お降りの方はお忘れ物のないように――』


目の前のドアが、まるで、わたしたちを誘うように開いた。



「行こ、先生」



つかんだ手を優しく引っ張られ、体が動く。


心が――動く。