「くそっ!」


突然しぼり出すような声で叫び、瑠衣は砂浜をこぶしで打ちつけた。

小さな山になっていた部分が崩れ、彼の手が砂にうもれた。


「……今すぐ殴りに行きたいと思った人間は、そいつが初めてやわ」


夜空の下でもわかるほど顔を朱に染めて、憎悪の言葉を吐き捨てる瑠衣。


こんな反応をされるなんて、わたしは夢にも思っていなかった。

気まずそうに黙られたり、慰めの言葉をかけて同情されたりするのだろうと思っていた。


「あ……ごめん」


目を見開くわたしに気づき、瑠衣はあやまる。


「先生の辛さを受け止めてあげなアカンのに、俺がキレてどうするねんな」

「ううん……」


瑠衣は、怒ってくれた。
わたしの代わりに。


怒りを向けるべきなのは自分自身ではなく、幼いわたしを虐げたあの男なんだ。


わかっていた。

なのにわたしは、ずっとわたしを責めてきた。


「先生」


わたしの前にしゃがんで、瑠衣は言った。